浦和すずのきクリニックの鈴木です。
パニック症でよくある2つのタイプがあります。
「一人だと、何かあった時に助けてもらえないから不安」
「誰かと一緒だと、相手に気を使って逃げ場がなくなるから怖い」
同じ「外出が怖い」という悩みでも、実はこの2つは全く性質が異なります。
あなたがどちらに近いかによって、克服へのアプローチも変わってきます。
ここを整理せずに、ただ闇雲に「外に出る練習」をしてしまうと、良かれと思った行動が逆に苦しさを長引かせる原因になってしまうことさえあります。
この記事では、それぞれのタイプの特徴を整理し、どう対処していけばよいのか、具体的なステップをお伝えします。
自分の不安の形に合った方法を知り、かつてのように行きたい場所へ出かけられる日常を取り戻すためのヒントにしてください。
タイプによって「逆効果になる行動」が違います
2つのタイプを分ける理由は、治すために「やめるべきこと」が正反対だからです。
自分のタイプに合わない方法をとると、症状は良くなるどころか悪化します。
それぞれのタイプが陥りやすい、逆効果な行動を説明します。
・一人が怖いタイプ
「一人が怖い」人は、外出の時に誰かに付き添ってもらいます。
このタイプの方が誰かと行動するのは、万が一の時に助けてもらうためです。
発作が起きても、隣に人がいれば安心できます。
しかし、付き添いがある状態で電車に乗れても、「一人でも乗れた」という自信にはなりません。
「付き添いがあったから乗れたんだ」と認識してしまいます。
その結果、「自分一人では対処できない」という思い込みがいつまでも消えません。
・誰かがいると怖いタイプ
「人といるのが怖い」人は、不安を隠そうとするほど追い詰められます
このタイプの方が本当に避けているのは、「取り乱している姿を見られること」です。
「相手に迷惑をかけること」や「変に思われること」を何よりも恐れています。
そのため、具合が悪いのを悟られないよう、必死に隠そうとします。
しかし、「絶対にバレてはいけない」という緊張感が、かえって動悸や息苦しさを強めます。
皮肉なことに、隠そうとする努力が、恐れている発作を呼び寄せてしまうのです。
対処法はタイプによってやるべきことが真逆です
片方は「付き添い」をやめる必要があります。
もう片方は「隠すこと」をやめる必要があります。
自分のタイプを知り、その逆効果な行動をやめることが、回復への近道です。
なぜ、あえて「一人になる」ことや、「逃げられない場所」に身を置く練習が必要なのでしょうか。
それは、避けている限り、あなたの心の中にある「悪い予測」が消えないからです。
タイプ別に「恐れている予測」があります
「一人が怖い」タイプの方は、「一人になったら助けてもらえず、対処できず倒れてしまう」と予測しています。
「人といるのが怖い」タイプの方は、「逃げられない場所で発作を見られたら、終わりだ」と予測しています。
この予測は、実際にその状況を避けている限り、いつまでも「真実」として残ります。
むしろ、「避けたから助かったんだ」と誤解してしまい、恐怖はより強固になります。
このため「大丈夫だった」という事実を体験することが必要です。
「一人になっても、倒れずに立っていられた」
「逃げられない電車に乗っても、発作を見られずに済んだ(または見られても平気だった)」
この事実を体験した時初めて、体は安心を覚えます。
これから紹介するステップは、その証拠を集めるための実験です。
・「一人が怖い」人の電車挑戦へのステップ
ステップ1:同じ車両で、離れて立つ
付き添いの人と同じ車両に乗りますが、少し離れた場所に立ちます。
「何かあったら助けてもらえる」という安心感は残しつつ、自分の足で立ってみてください。
倒れずに立っていられたという事実を確認します。
ステップ2:隣の車両に移動する
自分と付き添いの人で、乗る車両を分けます。
姿は見えなくても、同じ電車には乗っている状態です。
視界に誰もいなくても、不安はピークを超えると勝手に下がっていくことを体感します。
ステップ3:一人で電車に乗る
付き添いなしで乗車します。
「一駅乗る」といった距離のノルマよりも、「不安になっても大丈夫だった」という確認を優先します。
ドキドキしても、気絶もしなければ、発狂もしないことを観察してください。
付添人がいなくても、最悪の事態(気絶や死)は起きなかったという事実を学習しましょう。
・「人といるのが怖い」人の電車挑戦へのステップ
ステップ1:親しい人と、各駅停車に乗る
家族など、「辛い」と言える相手と、いつでも降りられる電車に乗ります。
あえて「少しドキドキする」感覚を味わいながら、そのまま乗ってみてください。
誰かと一緒でも、逃げ道があれば不安はコントロールできることを確認します。
ステップ2:親しい人と、快速電車に乗る
相手は安心できる人のまま、駅間の長い(拘束される)電車に乗ります。
「降りたい」という衝動が来ても、次の駅までは物理的に降りられません。
その時間を、ただやり過ごします。
逃げられない場所に数分間閉じ込められても、自分は耐えられた(死ななかった)という事実を確認します。
ステップ3:少し気を使う人と、電車に乗る
同僚や知人など、少し緊張する相手と乗ります。
「変に思われないか」というプレッシャーを感じる状況にあえて身を置きます。
緊張してうまく振る舞えなくても、相手は私を軽蔑したりしなかったという結果を確認します。
ステップを進めていくと、必ず「怖い」「ドキドキしてきた」と感じる瞬間が訪れます。
その時、反射的に「降りたい!」「逃げたい!」と思うかもしれません。
しかし、ここで逃げずにその場に留まることこそが、パニック症を克服する最大の鍵になります。
練習中に不安が襲ってきた時は、次の3つを思い出してください。
1. 不安には「ピーク」があり、必ず下がる
人間の体の仕組み上、恐怖や緊張のピークは永遠には続きません
不安はある一定の時間が過ぎれば、何もしなくても勝手に下がっていきます。
一番やってはいけないのは、不安がピークの時に電車を降りてしまうことです。
そうすると脳は「降りたから助かった(乗り続けていたら危なかった)」と勘違いし、余計に恐怖を強めてしまいます。
「不安は永遠に続くことはない」と、嵐が過ぎ去るのをその場で待ってください。
2. 「危険」と「不快」を区別する
発作中は「死ぬかもしれない」「気が狂うかもしれない」という強烈な恐怖を感じます。
しかし、それは脳が送っている「誤報」です。
動悸が激しくても心臓は止まりませんし、息苦しくても窒息はしません。
確かにとても「不快」ですが、決して「危険」ではないのです。
「ものすごく不快だけど、危険なことは起きていない」と考えてください。
3. 不安をコントロールしようとしない
「落ち着け、落ち着け」と焦るほど、脳は興奮します。
震えてもいいし、ドキドキしても構いません。
「あー、また脳が誤作動のアラートを鳴らしているな」と、他人事のように自分の体の反応を観察してみてください。
抵抗せずに「不安なまま、ただそこにいる」ことができた時、あなたの脳は「なんだ、逃げなくても大丈夫だったじゃないか」と深いレベルで理解し始めます。
最後に、パニック症の外出恐怖を克服するためのポイントを整理します。
・自分のタイプを知る
・「一人が怖い(孤独への恐怖)」のか、「人といるのが怖い(他人の目への恐怖)」のかを見極める
・逆効果な行動をやめ、チャンレジする
恐怖は、避ければ避けるほど大きくなります。
しかし、正しい手順で正面から向き合えば、必ず小さくなっていきます。
まずは今日、一番小さなステップから始めてみてください。
「意外と大丈夫だった」という小さな成功体験が、あなたから不安を取り除いてくれます。
かつてのように、行きたい場所へ自由に行ける日は必ず来ます。
もし、「一人で練習を進めるのが怖い」「自分のスモールステップの組み方がわからない」という場合は、専門家の力を借りるのも一つの手です。
あなたのタイプに合わせた克服プランを一緒に考えていくことができます。
一人で悩まず、まずはご相談ください。
