
ひきこもり
ひきこもりとは
ひきこもりは家の中から出ずに学校や会社にいかず、親密な対人関係がない状態のことをいいます。統合失調症などのこころの病気を伴う場合もあり、専門医のかかわりが必要な場合もありますが、そうでない場合もあります。
ところでこの「ひきこもり」という言葉には、人とのかかわりを持ったほうが健全である、という含みがあります。果たして本当にそうなのでしょうか。
ひきこもりとプライバシー
ひきこもりの心理として、一つには他人から侵入されるのではないか、という恐れがあります。人と関わることで自分というものがなくなってしまうのではないか、そういう感覚があるのです。そして自分の大切にしている「核」の部分が人目に曝されてしまうのではないか、という感覚もあります。こちらの方は恥の感覚と近いと思います。また、自分というものが理解されないのではないか、という不安からも人との関わりを避けることになります。ひきこもりはこうした自分の大切な部分を守るための試みであると理解することもできるのです。しかし、多くの人はこうした恐怖や恥を感じることなく、人と関わっていることも事実です。
精神分析家のウィニコットという人は、他人と一緒にいても、こうしたプライバシーを持つことができる能力を「ひとりでいられる能力」と呼びました。この能力は、例えば母親のそばで遊んでいる子どもは、その母親を「他人」として意識することなく、まるで一人で遊んでいるかのように振舞うことができる、というものです。それでいて、この子どもは母親がそこにいる、ということは知っていて、だからこそ安心して遊ぶことができるのです。ここでの母親は「他人」ではなく、子どもが遊ぶための「環境」のようなものなのです。そのため、この子どもは恐怖や恥を感じることなく、他人と一緒にいることができるのです。
ひきこもりでは、このひとりでいられる能力が、何らかの理由で育たなかったために、他人が「他人」として意識されすぎてしまうことから起こると考えられます。
ひきこもりとカウンセリング
では、ひきこもる人のカウンセリングでは何が起こるのでしょうか。まずはカウンセリングの中でプライバシーを尊重されていると感じることが必要になると思います。そしてその中で、カウンセラーと興味や趣味を共有したり、話してもいいと思えるところまで話したり、頭に浮かぶことをあれこれ語ったりするうちに、カウンセラーを「他人」ではなく、「環境」として感じるようになります。カウンセリングの大家である、カール・ロジャースという人は、カウンセリングの中でカウンセラーと一緒にいるにもかかわらず、クライエント(カウンセリングを受けている人)がまるで一人でいると錯覚するような場面を描いています。このようなことを繰り返し体験することを通して、ひとりでいる能力が育ち、カウンセリングを離れた場面でも人と関わる際に恐怖や恥を感じることがなくなると考えられます。
参考文献
藤山直樹 2003 精神分析という営み‐生きた空間をもとめて 岩崎学術出版社
諸富祥彦 1997 カールロジャーズ入門‐自分が自分になるということ コスモスライブラリー
Winnicott,D.W. 1965 The Maturational Processes and the Facilitating Environment. Hogarth Press.(牛島定信訳 1977 情緒発達の精神分析理論 岩崎学術出版社)
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