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自己愛

自己愛とは

自己愛とは、文字通りには自分自身のことを大切に思う気持ちのことですが、それ自体は決して問題となるものではなく、誰もが持っているものです。多くの人は子供のころから、周囲の人に褒めてもらったり、愛情を感じたりすることで「自分は愛されていて、この世に存在してもいいんだ」という自信を発達させることができます。ところが、この愛情が感じられないと、そのままでは自分の存在が認められているように感じることができず、誰かに具体的な称賛をしてもらわないと不安になったり、批判されるのを過度に恐れるようになったりします。

このように自己愛に傷を持っている人は、他者の気持ちに対して誤解をすることが多くなります。他者への関心は、他者が自分に対してどう思っているのか、ということに集中し、その他のことへの共感はなくなります。他者の存在は、自分のことを褒めてくれるか、批判してくるか、ということでしか判断できなくなります。また、自分を承認してくれる人は、自分の全てを承認してくれるはずで、少しでも批判されると、その相手は自分の全てを否定した、と思い込んでしまいます。あるいは、他者を自分の理想像として、その人に認められるように努力をしたり、その人と同じような人になろうと努力をしたりします。

実際の状態としては、批判を受けそうな場面を避けたり、自分のことを認めてくれるような仲のいい友人や家族とだけ過度に一緒にいたりします。逆に、周囲からの称賛を求め、困難や危険とされることに果敢に立ち向かい、自信に満ちているように見える場合もあります。

自己愛の背景

一般的な母子関係では、母親は子供の欲求を敏感に感じ取り、子供が自分の欲求を自分で感じる前に、母親が処理してしまいます。段々母親が子供から離れていくにつれ、子供は自分で欲求を感じ取り、自分で徐々に処理していかなくてはならなくなります。この過程が急すぎても、遅すぎても、子供が「存在そのものを受け入れられている」感覚を発達させることに障害をきたします。

自己愛の神話

このような自己愛の障害は、様々な神話にも描かれますが、よく知られているものに、オヴィディウスの「変身物語」があります。主人公のナルシスは誰も愛することができず、彼を愛したエコーは彼の言葉をただ繰り返すことしかできず、ナルシスは彼女の気持ちに共感することは全くできません。ナルシスは他者と関係を持つことができず、水面に移った自分の姿しか見ることができないのです。ここに自己愛に障害を持つ人の苦しみが表現されています。

自己愛からの回復

心理療法の中で自己愛から回復するには、自分がどのような傷を負っているのかをセラピストとともに検討し、自分の揺れ動く感情が、どういう背景を持って揺れ動いているのかを、言葉にしていく作業が必要になります。そして、最終的には自分のいい所とそうでない所を受け入れ、自分自身で自分のことを受け入れることができるようになり、他者を本当の意味で愛せるようになることが目標となります。

参考文献
Asper,K. 1991 Verlassenheit und Selbstenfremdung. Walter Verlag.(老松克博訳 2001 自己愛障害の臨床 創元社)
Jacoby,M. 1985 Individuation und Narzissmus. Pfeiffer Verlag.(山中康裕監・高石浩一訳 1997 個性化とナルシシズム 創元社)

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